困った後輩
2011年 06月 05日
最近研修日がちょっと憂鬱。理由は、検査の時に私が指導している研修医の存在にある。
彼は医学部卒業したてのピカピカ1年目ではない。医者になってから数年たっており(そういう意味では研修医とは言わないか。)既にXX科に属している。それが今更のように、何を思ったか胃カメラ大腸カメラのトレーニングをしようと思い立ったらしい。
指導日初日、内視鏡を教えて欲しいと言われて普通に胃カメラを指導したところ、
「これから毎回先生に付いていいですか!」
と身を乗り出すように言われた。……。あまりの熱心さにちょっと引いたものの、断る理由もなくうっかり頷いてしまい、以後私が研修に行く度にやる気満々の彼が待っている。はぁ~。
私なんて消化器内科の専門医でもないし、内視鏡の経験年数的にも一番下っ端だし、多少面倒見がよい以外には指導医として私を積極的に指名する理由はない。全くない。それなのになぜ?彼の指導を重ねるにつれて、その辺りの事情が段々と明らかに…。
彼は他の先生にあまり教えてもらえていなかったらしい。看護師さんの話では、むしろ邪険な扱いを受けていたとか。かわいそうな気もするが、原因はやはり彼のキャラクターが…。
悪い人ではないと思う。一応言葉も敬語だし、うっとうしいほどやる気満々だし。でもね、一言で言えば‘空気が読めない’のである。
私は、この空気を読む能力というのは、研修医(もしくは現場で指導を受けようという人)にとって必須能力に思えてならない。自分は手技をやりたい、指導して欲しい、でも患者さんがいてやるべき業務がある以上、それはあくまでオプションであり、状況を見ながらなのだ。検査の件数がすごく多くてスタッフが切羽詰っている時、患者さんが指導に向かないなど、教えてあげられないシチュエーションは幾らだってある。研修医にやらせてあげるつもりで患者さんを内視鏡室にいざ招き入れたら、患者さんが思った以上にナーバスな方でピリピリしていて、急遽指導医が検査することになった、ということだってある。そんな時にすぐに状況を察して検査からさっと身を引いて指導医にバトンタッチしたり、聞きたいことがあっても忙しそうな時には質問を控える、指導医やナースがやるべき雑用をパパッとこなすなどの状況判断ができる研修医は重宝されて可愛がられる。余裕がある時には色々やらせてあげようという流れになる。チームの一員として安心して見ていられるのだ。
彼はその逆だった訳である。大腸カメラに付けば、こっちに余裕があろうがなかろうがお構いなしに質問してくる。
「今はもう、下行結腸に入ったところですかね?」
「今は、どういう動きをしているんですか?」
そして説明したことを聞いて
「ふんふんなるほど。あ、コツがまた一つ分かっちゃった。」
どことなく上から目線と言うか、腹が立ちません?(笑)ベテランの先生ならこの質問攻撃に対応できるのだろうか?(いや、でもそうなら干されていないはずだ)少なくとも私はそこまで大腸カメラを極めていないので、手技の一挙手一投足に理由を求められても答えられないし、うるさいと思ってしまう。
立ち位置も良くない。私の隣りに立っているのはまぁいいとして、近すぎる上に身を乗り出している。わざと肘鉄をかましちゃおうかなと思ってしまうくらい近い。他人に近付かれると不快に感じる空間をパーソナルスペースと言うらしいが、彼の立ち位置はもろに私のパーソナルスペース内だ。
きちんと注意すればいいと言われるとその通りなのだが、この‘空気が読めない’ことを注意するのは結構難しい。
「今こっちも余裕ないから質問しないで。」
とか言うと患者さんも焦りそうだし、
「もうちょっと私から離れて。」
も何だか言いにくくて…。
だがこれは言わない訳にいかない、という所も。それは選手交代の指示に従えないこと。彼が胃カメラを始めたものの、患者さんの咽頭反射(喉元でオエッとなる反射)が思ったよりも強い。これは私がやった方がいいなと判断。
「替わろうか。」
と小さな声で言ってみた。反応がない。そうこうするうちにカメラが胃の中まで来たのでちょっと様子を見ていたが、十二指腸に入ってから再び手こずっているので、もう一度言った。
「手を替えてみようか。」
いかにも取り上げられたという感じだと患者さんへの印象も悪いので、穏やかな提案風に。
「大丈夫です。」
彼はカメラを離そうとしない。患者さんがつらそうなので、私もここできっぱり。
「替わります。」
強制的にカメラ取り上げ。
この時には私もかなり怒っていたので、患者さんへの説明、レポート書きまで自分一人で行い(通常は研修医がやるのを横でサポートする)、患者さんが退室してから
「替わってって言った時にはすぐに替わってくれないと今後やらせてあげられないよ。」
と通達。これでもまだ優しすぎる気もするが、たまたまその場に居合わせた親しい女の後輩が
「あんなに怒りを露わにしている先輩、初めて見ました!」
と言っていたから、かなり表情には出ていたのだろう。私、家庭内ではあんなだが(どんなだ)家の外ではあまり負の感情は外に出さない方だと思うのだが、今回ばかりは敢えて怒っていることが伝わった方がいいと思い開き直った。
彼が他の先生にあまり良く教えてもらえていない理由がもう一つ思い当たる。内視鏡トレーニングの目的が曖昧なのだ。やる気があって何でも見てやろう、どんどん勉強してやろうという姿勢そのものはいい。だけど…何でも‘やってやろう’となると話は別である。検査というのは相手=患者さんがいることだから。検査をやり始めたばかりというのは、どんな人でも多かれ少なかれ下手である。患者さんからしたら、ベテランがやるのに比べて余計につらい思いをしなくてはならない。それでも我慢をして頂くのは、ゆくゆく彼または彼女が一人前の検者になるためである。今回の彼の場合、彼は消化器内科になろうとしている訳ではない。内視鏡をこれから先も仕事の一部としてやろうとしている訳でもない。彼が内視鏡のトレーニングをすることのメリットは、内視鏡所見を読めるようになってXX科(消化器内科と関連はある)での仕事への理解が深まること。う~ん、微妙…。それなら何も彼が自分で内視鏡を握らないでも、私がやっているのを後ろで見ているだけでもいいような…。患者さんに敢えて辛い思いをさせてまで彼が内視鏡を握る必要がはたしてあるのか…。
上手な注意の仕方、内視鏡のトレーニングを受けるべき資格の有無についてなど、いくつもの課題を与えてくれた彼。後者の問題については、場合によっては他の消化器内科の先生とも話し合ってみようかな。
彼は医学部卒業したてのピカピカ1年目ではない。医者になってから数年たっており(そういう意味では研修医とは言わないか。)既にXX科に属している。それが今更のように、何を思ったか胃カメラ大腸カメラのトレーニングをしようと思い立ったらしい。
指導日初日、内視鏡を教えて欲しいと言われて普通に胃カメラを指導したところ、
「これから毎回先生に付いていいですか!」
と身を乗り出すように言われた。……。あまりの熱心さにちょっと引いたものの、断る理由もなくうっかり頷いてしまい、以後私が研修に行く度にやる気満々の彼が待っている。はぁ~。
私なんて消化器内科の専門医でもないし、内視鏡の経験年数的にも一番下っ端だし、多少面倒見がよい以外には指導医として私を積極的に指名する理由はない。全くない。それなのになぜ?彼の指導を重ねるにつれて、その辺りの事情が段々と明らかに…。
彼は他の先生にあまり教えてもらえていなかったらしい。看護師さんの話では、むしろ邪険な扱いを受けていたとか。かわいそうな気もするが、原因はやはり彼のキャラクターが…。
悪い人ではないと思う。一応言葉も敬語だし、うっとうしいほどやる気満々だし。でもね、一言で言えば‘空気が読めない’のである。
私は、この空気を読む能力というのは、研修医(もしくは現場で指導を受けようという人)にとって必須能力に思えてならない。自分は手技をやりたい、指導して欲しい、でも患者さんがいてやるべき業務がある以上、それはあくまでオプションであり、状況を見ながらなのだ。検査の件数がすごく多くてスタッフが切羽詰っている時、患者さんが指導に向かないなど、教えてあげられないシチュエーションは幾らだってある。研修医にやらせてあげるつもりで患者さんを内視鏡室にいざ招き入れたら、患者さんが思った以上にナーバスな方でピリピリしていて、急遽指導医が検査することになった、ということだってある。そんな時にすぐに状況を察して検査からさっと身を引いて指導医にバトンタッチしたり、聞きたいことがあっても忙しそうな時には質問を控える、指導医やナースがやるべき雑用をパパッとこなすなどの状況判断ができる研修医は重宝されて可愛がられる。余裕がある時には色々やらせてあげようという流れになる。チームの一員として安心して見ていられるのだ。
彼はその逆だった訳である。大腸カメラに付けば、こっちに余裕があろうがなかろうがお構いなしに質問してくる。
「今はもう、下行結腸に入ったところですかね?」
「今は、どういう動きをしているんですか?」
そして説明したことを聞いて
「ふんふんなるほど。あ、コツがまた一つ分かっちゃった。」
どことなく上から目線と言うか、腹が立ちません?(笑)ベテランの先生ならこの質問攻撃に対応できるのだろうか?(いや、でもそうなら干されていないはずだ)少なくとも私はそこまで大腸カメラを極めていないので、手技の一挙手一投足に理由を求められても答えられないし、うるさいと思ってしまう。
立ち位置も良くない。私の隣りに立っているのはまぁいいとして、近すぎる上に身を乗り出している。わざと肘鉄をかましちゃおうかなと思ってしまうくらい近い。他人に近付かれると不快に感じる空間をパーソナルスペースと言うらしいが、彼の立ち位置はもろに私のパーソナルスペース内だ。
きちんと注意すればいいと言われるとその通りなのだが、この‘空気が読めない’ことを注意するのは結構難しい。
「今こっちも余裕ないから質問しないで。」
とか言うと患者さんも焦りそうだし、
「もうちょっと私から離れて。」
も何だか言いにくくて…。
だがこれは言わない訳にいかない、という所も。それは選手交代の指示に従えないこと。彼が胃カメラを始めたものの、患者さんの咽頭反射(喉元でオエッとなる反射)が思ったよりも強い。これは私がやった方がいいなと判断。
「替わろうか。」
と小さな声で言ってみた。反応がない。そうこうするうちにカメラが胃の中まで来たのでちょっと様子を見ていたが、十二指腸に入ってから再び手こずっているので、もう一度言った。
「手を替えてみようか。」
いかにも取り上げられたという感じだと患者さんへの印象も悪いので、穏やかな提案風に。
「大丈夫です。」
彼はカメラを離そうとしない。患者さんがつらそうなので、私もここできっぱり。
「替わります。」
強制的にカメラ取り上げ。
この時には私もかなり怒っていたので、患者さんへの説明、レポート書きまで自分一人で行い(通常は研修医がやるのを横でサポートする)、患者さんが退室してから
「替わってって言った時にはすぐに替わってくれないと今後やらせてあげられないよ。」
と通達。これでもまだ優しすぎる気もするが、たまたまその場に居合わせた親しい女の後輩が
「あんなに怒りを露わにしている先輩、初めて見ました!」
と言っていたから、かなり表情には出ていたのだろう。私、家庭内ではあんなだが(どんなだ)家の外ではあまり負の感情は外に出さない方だと思うのだが、今回ばかりは敢えて怒っていることが伝わった方がいいと思い開き直った。
彼が他の先生にあまり良く教えてもらえていない理由がもう一つ思い当たる。内視鏡トレーニングの目的が曖昧なのだ。やる気があって何でも見てやろう、どんどん勉強してやろうという姿勢そのものはいい。だけど…何でも‘やってやろう’となると話は別である。検査というのは相手=患者さんがいることだから。検査をやり始めたばかりというのは、どんな人でも多かれ少なかれ下手である。患者さんからしたら、ベテランがやるのに比べて余計につらい思いをしなくてはならない。それでも我慢をして頂くのは、ゆくゆく彼または彼女が一人前の検者になるためである。今回の彼の場合、彼は消化器内科になろうとしている訳ではない。内視鏡をこれから先も仕事の一部としてやろうとしている訳でもない。彼が内視鏡のトレーニングをすることのメリットは、内視鏡所見を読めるようになってXX科(消化器内科と関連はある)での仕事への理解が深まること。う~ん、微妙…。それなら何も彼が自分で内視鏡を握らないでも、私がやっているのを後ろで見ているだけでもいいような…。患者さんに敢えて辛い思いをさせてまで彼が内視鏡を握る必要がはたしてあるのか…。
上手な注意の仕方、内視鏡のトレーニングを受けるべき資格の有無についてなど、いくつもの課題を与えてくれた彼。後者の問題については、場合によっては他の消化器内科の先生とも話し合ってみようかな。
# by shriash | 2011-06-05 05:26 | 診療所日記



